ラビは、もしかしたら自分を見て出された悲鳴なのだろうか、と思って足を止めた。しかし、振り返ろうとした矢先、背後から走ってきた男達がぶつかってきて「うわっ」と声をあげ、咄嗟にバランスをとって転倒を免れた。


 男達は、あっという間に人混みにまぎれて見えなくなった。こんなに人の往来が溢れている通りで、全力疾走するなんて非常識である、とちょっと腹が立った。

『ラビ、大丈夫か?』
「うん、オレは平気だったけど……。ノエルは?」
『ぶつかってたら、こっちが騒ぎになってるぜ』

 他の人間に自分の姿は見えないのだ、とノエルの美しい赤い瞳は呆れたようにそう語っていた。

 ラビは、まだ騒がしさが続いている人の波の向こうを見やった。身長が低いため、一体何が起こっているのか分からなかった。周りを足早に歩いていた人達も、歩む速度を落として、一体何事だろうなという目をそちらへ向けている。

 ラビと同じ方向に首を向けたノエルが、ピクリと耳を立てて、げんなりした様子で「マジかよ」と溜息交じりにぼやいた。