振り返ってみると、ケイティには助けられた部分が多く、話す中で嫌な雰囲気を覚えなかったのも事実だ。広い王都でまた彼と顔を会わせる事があるかは分からないけれど、名刺は大事に仕事鞄にしまった。

 宿の部屋は大きな窓が一つと、ベッド、衣装棚と机があった。室内にシャワールームが付いているタイプのもので、移住者や単身赴任も多い王都では、めずらしくないアパートメントタイプの宿なのだという。

 開いた窓の下からは、王都の賑やかさが入り込んでいた。最上階に近い五階部分という事もあって、地上を行き交う人々の声や馬車の音、商人達の客引きの声はそこまで響いてこない。

 少し前にヒューガノーズ伯爵邸でスコーンを食べていたので、ラビはまだ空腹ではなかった。それに付き合うように、ノエルもすぐにはサンドイッチを要求せず、共に床の上で楽に腰を落ち着けて、しばし窓から吹き込む秋先の涼しい風を感じていた。