「おはよう、ノエル。お疲れ様」

 周りの人に怪しまれない程度に、ラビはこっそり話し掛けた。

 彼女と口調が似ているノエルが、むくりと頭を起こして『おぅ』と答え、ルビーのような赤い瞳を細めてニヤリとした。

『さすが上等の馬車だぜ。力加減を調整して爪を立てれば傷も入らないから、道中は楽だったな。――ラビ、痛いところはないか? 平気か?』
「オレは大丈夫だよ、ありがとう」
『人間は、しっかり眠らないと身体に悪いからな』

 ノエルがそう言って、励ますように大きな頭を背中に擦り付けてきた。やはり誰にも見えないとは思えないほど暖かくて、すぐにぎゅっと抱き締めてしまいたくなったラビは、人前であるという意識で踏みとどまり、その気持ちをぐっとこらえた。

 寂しいのだ、とても心細い。

 本音を言ってしまうと、ラビはここに立っていたくなかった。知らない人間から向けられる好奇と、まるで同じ生物じゃないような恐れを含んだ視線が、とても胸に痛い。