「そちらは?」
「わ、私の、恋人です」
震える声で答えると、小野先生は驚いたような顔になった。
「お付き合いしている方はいないと言ってませんでしたか?」
そういえば、まだ小野先生が来たばかりの頃、素直にそんなことを言ってしまったことがある。
「俺とは最近付き合いだしたんです。あなたこそ、信乃とどういう関係ですか」
相良さんは、とっさにうまく話を合わせてくれた。鋭い目線に、小野先生がひるむ。
「私は、浅木先生と同じ小学校の小野と言います」
「そうですか。信乃がいつもお世話になっております。では失礼します」
軽く会釈すると、相良さんは私を促して歩き始めた。
「浅木先生」
怒ったような声音に、ちらりと少しだけ振り向く。小野先生は、みたことのない無表情の顔をしていた。
「あなたにその人は似合わない。私の誘いを断って、なぜそんな男を選ぶんですか。目を覚ましてください」
「私の好きなのはこの人です。もう、私に関わらないでください」
「私と一緒に行きましょう。私の方がいい男だと、わからせてあげますよ」
「見苦しいぞ。あんたは振られたんだ。さっさとあきらめることだな」
相良さんが険のある口調で言うと、ぎ、と小野先生は彼を睨みつけた。
「私はあきらめない。これで済むと思うなよ」
「残念だけど、信乃が愛してるのは俺だよ。信乃になにかあったら絶対に許さない。覚えておけ」
そう言って私の肩を守るように抱くと、相良さんはもう振り返らずに歩き出す。足が震えてうまく歩けないけど、相良さんが支えてくれた。後ろから見たら、まるで睦まじく寄り添っているように見えただろう。
小野先生は、それ以上は追ってこなかった。
「ありがとうございます。助かりました」
しばらく歩いてから、私はようやく息をはいた。相良さんは、私がちゃんと立てることを確かめて手を離してくれた。
「役にたててよかった。あの男、いつもああなの?」
「何度かお食事に誘われてはいたんですけど、いつも断っていました。同じ職場なので、あまり露骨に断ることも悪いと思ってなんとなくうやむやにしていたんですけど……」
ぎゅ、と自分の手を握りしめる。
こんなことになるなら、もっときちんと拒絶しておくべきだった。まさかこんな……こんな怖い目にあうなんて。
「ごめんね」
「え?」
急に相良さんが申し訳なさそうに謝った。
「名前、呼び捨てにしちゃったし勝手に触っちゃったし」
「ああ……いえ、全然かまわないです。こちらこそ、急に変な事お願いしてすみませんでした」
とっさのことだったのに、本当の彼氏みたいに守ってくれたのが嬉しかった。すがりついた手を、振りほどかれなくてよかった。
やっぱり相良さん、いい人だなあ。
「俺は全然。小学校の先生だったの?」
送るよ、と言って、相良さんはゆっくりと歩き出す。
「私ですか?」
「さっき、小学校がどうの言ってたから」
「はい。私、小学校で図書館司書をしているんです。さっきの方は小野先生といって、同じ小学校の2年生の担任です」
「そっか。あんまりしつこいようなら、校長なり誰なりに相談した方がいいんじゃない?」
「これで諦めてくれるといいんですけど……」
幸いというか、私に恋人がいると思ってくれたならそれでいい。もう、私に構わないでほしい。
「大丈夫?」
アパートの前で心配そうに聞いてくれた相良さんに、なんとか笑いを作ってみる。
「はい。小野先生だって、人目のある学校ではちゃんとしてくれますので、きっと大丈夫です」
そう言いながら、私の視線は今来た道を確認していた。
ここまでは、こないよね。ついてきていたり……しないよね。
「わ、私の、恋人です」
震える声で答えると、小野先生は驚いたような顔になった。
「お付き合いしている方はいないと言ってませんでしたか?」
そういえば、まだ小野先生が来たばかりの頃、素直にそんなことを言ってしまったことがある。
「俺とは最近付き合いだしたんです。あなたこそ、信乃とどういう関係ですか」
相良さんは、とっさにうまく話を合わせてくれた。鋭い目線に、小野先生がひるむ。
「私は、浅木先生と同じ小学校の小野と言います」
「そうですか。信乃がいつもお世話になっております。では失礼します」
軽く会釈すると、相良さんは私を促して歩き始めた。
「浅木先生」
怒ったような声音に、ちらりと少しだけ振り向く。小野先生は、みたことのない無表情の顔をしていた。
「あなたにその人は似合わない。私の誘いを断って、なぜそんな男を選ぶんですか。目を覚ましてください」
「私の好きなのはこの人です。もう、私に関わらないでください」
「私と一緒に行きましょう。私の方がいい男だと、わからせてあげますよ」
「見苦しいぞ。あんたは振られたんだ。さっさとあきらめることだな」
相良さんが険のある口調で言うと、ぎ、と小野先生は彼を睨みつけた。
「私はあきらめない。これで済むと思うなよ」
「残念だけど、信乃が愛してるのは俺だよ。信乃になにかあったら絶対に許さない。覚えておけ」
そう言って私の肩を守るように抱くと、相良さんはもう振り返らずに歩き出す。足が震えてうまく歩けないけど、相良さんが支えてくれた。後ろから見たら、まるで睦まじく寄り添っているように見えただろう。
小野先生は、それ以上は追ってこなかった。
「ありがとうございます。助かりました」
しばらく歩いてから、私はようやく息をはいた。相良さんは、私がちゃんと立てることを確かめて手を離してくれた。
「役にたててよかった。あの男、いつもああなの?」
「何度かお食事に誘われてはいたんですけど、いつも断っていました。同じ職場なので、あまり露骨に断ることも悪いと思ってなんとなくうやむやにしていたんですけど……」
ぎゅ、と自分の手を握りしめる。
こんなことになるなら、もっときちんと拒絶しておくべきだった。まさかこんな……こんな怖い目にあうなんて。
「ごめんね」
「え?」
急に相良さんが申し訳なさそうに謝った。
「名前、呼び捨てにしちゃったし勝手に触っちゃったし」
「ああ……いえ、全然かまわないです。こちらこそ、急に変な事お願いしてすみませんでした」
とっさのことだったのに、本当の彼氏みたいに守ってくれたのが嬉しかった。すがりついた手を、振りほどかれなくてよかった。
やっぱり相良さん、いい人だなあ。
「俺は全然。小学校の先生だったの?」
送るよ、と言って、相良さんはゆっくりと歩き出す。
「私ですか?」
「さっき、小学校がどうの言ってたから」
「はい。私、小学校で図書館司書をしているんです。さっきの方は小野先生といって、同じ小学校の2年生の担任です」
「そっか。あんまりしつこいようなら、校長なり誰なりに相談した方がいいんじゃない?」
「これで諦めてくれるといいんですけど……」
幸いというか、私に恋人がいると思ってくれたならそれでいい。もう、私に構わないでほしい。
「大丈夫?」
アパートの前で心配そうに聞いてくれた相良さんに、なんとか笑いを作ってみる。
「はい。小野先生だって、人目のある学校ではちゃんとしてくれますので、きっと大丈夫です」
そう言いながら、私の視線は今来た道を確認していた。
ここまでは、こないよね。ついてきていたり……しないよね。



