「お騒がせをいたしました。もしよろしければ、何があったかお聞きしてもよろしいでしょうか」
はい、と受けて、私たちは他の人の邪魔にならないように隅による。そこで私は、中年の男性がレジの彼女に絡んでいたこと、彼女に非はないことを伝えた。
「そうですか。ご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、私は何も。それより、彼女を責めないでください」
レジの彼女に視線を向けると、なにやらお客さんに言われて頭を下げていた。でも今度は文句を言われてるのではなく、どうやらさっきの騒ぎを見ていたお客さんに励まされているみたいだった。
その様子を見てほっこりとする。
「もちろんです。私たちも、もっと店員の様子に目を配るようにいたします」
和やかな雰囲気になった店長は、これからもごひいきに、とお茶目に言った。
スーパーを出ようとして、足を止める。
さっきの中年の人、もう帰っちゃったよね。逆恨みされて、待ち伏せしていたりしないよね。
あたりを見回すけど、それらしい人は見えない。でも、すでに空は真っ暗だし、万が一にでもあとをつけられたら……
「ねえ」
「きゃっ!!」
背後から声をかけられて、思わず悲鳴を上げてしまった。勢いよく振り向くと、そこにいたのは。
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
声をかけてきたのは、しらすさんだった。手には買い物の袋を下げている。
「大変だったね、さっきの」
「あ……こちらこそ、ありがとうございました。助かりました」
「ううん、すごいんだね。はっきり言うところ、かっこよかったよ」
「そんな。結局、私何もできなくて」
うつむいて唇をかむ。
あの中年の人、私やレジの人が若い女性だったから居丈高だったんだ。しらすさんが来た途端、文句を言うのをやめた。結局、なめられていたんだ、私たちは。
どうして女だってだけで、こんな思いをしなきゃならないんだろう。
もっと声をあげればよかったのかな。怒鳴ればよかったのかな。
ううん、きっとだめだよね。しらすさんは怒鳴ったり怒ったりしなかったもの。
女って、なんて損なんだろう。
「そんなことない。あそこで声をあげるのは、誰にでもできることじゃないよ。それに、少なくともあのレジの子は君に救われていた。とても、嬉しかったと思う」
私は、しらすさんを見上げる。
背の高い彼の目は、とても穏やかに私を見ていた。
「そうでしょうか」
だといいな。私でも、誰かの役に立てたのなら。
「うん。それで、あの、決して下心とかないんだけど」
しらすさんは、言いにくそうに続けた。
「よかったら、家まで送らせてくれないかな?」
「え?」
「もう暗いし、もしかしてあの男がどこかで待ち伏せしていないともかぎらないから」
私が心配していたことと同じことを、しらすさんも考えていたんだ。
申し出は嬉しかったけど、私は少し、迷う。
いい人だな、とは思っていたけれど、この人だってどこの誰かも知らない人だ。そんな人に家を知られてしまうのって、もしかして危ないことなんじゃないだろうか。
そう思う一方で、一人で帰りたくないという思いも強かった。だって、本当にさっきは、怖かったから。
どうしよう。
「知らない男に送られるのもいやだろうけれど、俺が心配だから。……あ」
しらすさんは、思いついたようにポケットから財布を取り出した。
「俺、相良。相良太陽っていいます」
そう言って差し出したのは、免許証だった。確かにそこには、相良太陽という名前と目の前の人の写真が載っていた。本人が出したとはいえ個人情報だからあまりまじまじは見なかったけど、ゴールドのラインが印象に残った。
真面目な人なんだな。
「私は、浅木信乃です。じゃあ、途中まででいいですけど、お願いできますか?」
私が言うと、相良さんは、ほ、としたように微笑んだ。
「わかった。浅木さん? じゃあ、帰ろうか」
「はい」
私は、相良さんと並んで歩き出した。気を使ってくれたのか、相良さんは明るく話しかけてくれる。
はい、と受けて、私たちは他の人の邪魔にならないように隅による。そこで私は、中年の男性がレジの彼女に絡んでいたこと、彼女に非はないことを伝えた。
「そうですか。ご迷惑をおかけいたしました」
「いえ、私は何も。それより、彼女を責めないでください」
レジの彼女に視線を向けると、なにやらお客さんに言われて頭を下げていた。でも今度は文句を言われてるのではなく、どうやらさっきの騒ぎを見ていたお客さんに励まされているみたいだった。
その様子を見てほっこりとする。
「もちろんです。私たちも、もっと店員の様子に目を配るようにいたします」
和やかな雰囲気になった店長は、これからもごひいきに、とお茶目に言った。
スーパーを出ようとして、足を止める。
さっきの中年の人、もう帰っちゃったよね。逆恨みされて、待ち伏せしていたりしないよね。
あたりを見回すけど、それらしい人は見えない。でも、すでに空は真っ暗だし、万が一にでもあとをつけられたら……
「ねえ」
「きゃっ!!」
背後から声をかけられて、思わず悲鳴を上げてしまった。勢いよく振り向くと、そこにいたのは。
「あ、ごめん。驚かせちゃった?」
声をかけてきたのは、しらすさんだった。手には買い物の袋を下げている。
「大変だったね、さっきの」
「あ……こちらこそ、ありがとうございました。助かりました」
「ううん、すごいんだね。はっきり言うところ、かっこよかったよ」
「そんな。結局、私何もできなくて」
うつむいて唇をかむ。
あの中年の人、私やレジの人が若い女性だったから居丈高だったんだ。しらすさんが来た途端、文句を言うのをやめた。結局、なめられていたんだ、私たちは。
どうして女だってだけで、こんな思いをしなきゃならないんだろう。
もっと声をあげればよかったのかな。怒鳴ればよかったのかな。
ううん、きっとだめだよね。しらすさんは怒鳴ったり怒ったりしなかったもの。
女って、なんて損なんだろう。
「そんなことない。あそこで声をあげるのは、誰にでもできることじゃないよ。それに、少なくともあのレジの子は君に救われていた。とても、嬉しかったと思う」
私は、しらすさんを見上げる。
背の高い彼の目は、とても穏やかに私を見ていた。
「そうでしょうか」
だといいな。私でも、誰かの役に立てたのなら。
「うん。それで、あの、決して下心とかないんだけど」
しらすさんは、言いにくそうに続けた。
「よかったら、家まで送らせてくれないかな?」
「え?」
「もう暗いし、もしかしてあの男がどこかで待ち伏せしていないともかぎらないから」
私が心配していたことと同じことを、しらすさんも考えていたんだ。
申し出は嬉しかったけど、私は少し、迷う。
いい人だな、とは思っていたけれど、この人だってどこの誰かも知らない人だ。そんな人に家を知られてしまうのって、もしかして危ないことなんじゃないだろうか。
そう思う一方で、一人で帰りたくないという思いも強かった。だって、本当にさっきは、怖かったから。
どうしよう。
「知らない男に送られるのもいやだろうけれど、俺が心配だから。……あ」
しらすさんは、思いついたようにポケットから財布を取り出した。
「俺、相良。相良太陽っていいます」
そう言って差し出したのは、免許証だった。確かにそこには、相良太陽という名前と目の前の人の写真が載っていた。本人が出したとはいえ個人情報だからあまりまじまじは見なかったけど、ゴールドのラインが印象に残った。
真面目な人なんだな。
「私は、浅木信乃です。じゃあ、途中まででいいですけど、お願いできますか?」
私が言うと、相良さんは、ほ、としたように微笑んだ。
「わかった。浅木さん? じゃあ、帰ろうか」
「はい」
私は、相良さんと並んで歩き出した。気を使ってくれたのか、相良さんは明るく話しかけてくれる。



