さっきとは別の理由で、また涙が出そう。
どうしよう。嬉しい。
囮として利用されたのかもしれないけれど、そのことで相良さんを嫌いになったり、できない。
「相良さん、私……」
その時、ぐう、と相良さんのお腹が鳴った。
「……」
「……」
相良さんがテーブルに突っ伏す。
「あーもー決まらないなあ。ごめん」
ふふ、と笑いが漏れる。やっぱり相良さんはかわいくて、それでいてとてもかっこいい。
「気にしないでください。私は、そんな相良さんが好きですよ?」
勢いよく起き上った相良さんの顔を見ないようにして立ち上がる。
「何か、作ります。お夕飯、遅くなっちゃいましたね」
冷蔵庫、何があったかな。急いでご飯、炊かなくちゃ。
「俺も、手伝うよ」
相良さんも立ち上がって、キッチンに向かう私についてきた。
「あ、じゃあお米を……」
言って振り向いた私の腕を相良さんがひいた。
初めてのキスは、コーヒーの香りがした。
☆
「信乃ちゃん」
改札を出ると、相良さんが待っていた。
「遅くなってごめんなさい」
「ううん、俺も今来たところだから。今日も仕事お疲れさま」
私たちは並んで歩き出す。
あれから私たちは正式に付き合いだして、こうやって仕事帰りは家まで送ってもらうようになった。
相良さんの時間が合う時、という約束だったんだけど、結局ほとんど毎日ここで相良さんは待っていてくれる。
「お仕事は大丈夫なんですか?」
あまりにも毎日お迎えにきてくれるので、無理しているんじゃないか、って気がしてくる。
「大丈夫大丈夫。うちの上司も信乃ちゃんには負い目があるから、お迎えでーすって言うとあっさり帰してくれるよ」
相良さんのお仕事の時間は、特に決まってはいない。バイト、と本人が言っているように、必要な時に呼び出されて手伝う、みたいな感じらしい。
「私は嬉しいですけど」
ぼそ、と言うと、小さな声だったにも関わらず相良さんは気づいて微笑んだ。
「俺も、信乃ちゃんに会えて嬉しいよ」
言いながら、私の手をとって指を絡める。それだけで、私の体温がかかかとあがってしまう。
「そ、それはそうと、あの、私、謝らなければいけないことが……」
「ん? どうしたの?」
「実は、今度の日曜日、急な予定が入ってしまいました。すみません」
日曜日は、相良さんとデートで水族館へ行く予定だった。
「え、そうなの?」
「はい。父がこちらへ出張に来るついでに母もついて来るらしいので、久しぶりに一緒に食事でもどうか、と言われまして」
多分、食事は口実で、一人暮らしをしている私を心配して見に来てくれるんだと思う。それがわかるから、迷ったけどそっちを優先してしまった。
言い訳がましくそんなことを告げると、そう、と言ったきり相良さんは黙り込んでしまう。
あ、気を悪くしたのかな。
申し訳ないという気持ちと、デートを楽しみにしていてくれたのかなという嬉しい気持ちが入り混じる。
「ごめんなさい、来週は必ず……」
「信乃ちゃん」
「はい」
「その……俺も一緒に行っちゃだめかな」
「え?」
「君のご両親に、俺もご挨拶したいんだ」
とくん、と胸が音を立てる。
「一度ちゃんとご両親に挨拶しておきたいと思っていたんだ。将来のためにも、変な奴とつき合っていると心配させたくないし」
絡めた相良さんの指に力が入る。
将来。それって。
「だめかな?」
つないだ相良さんの腕にそっと顔を寄せる。
だめなわけない。とっても、嬉しい。
「どうしようかな」
けれど、わざとそんな風に言って、指を離すと相良さんの前を歩き始めた。
「信乃ちゃん」
「だって相良さん」
困惑するような相良さんの声を聞きながら、振り向かずに続ける。こんなにやにやした顔、見せられないじゃない。
「私の両親に挨拶する前に、私に言うべきことがあるんじゃないですか?」
将来の話なんて、今初めて聞いたもの。また自分勝手に話を進めようとするんだから。
相良さんの足音が止まった。
「浅木信乃さん」
落ち着いた、でもちょっと緊張感のある声が聞こえて、私はゆっくり振りかえる。
大好きな人から、大切な言葉を受け取るために。
Fin
どうしよう。嬉しい。
囮として利用されたのかもしれないけれど、そのことで相良さんを嫌いになったり、できない。
「相良さん、私……」
その時、ぐう、と相良さんのお腹が鳴った。
「……」
「……」
相良さんがテーブルに突っ伏す。
「あーもー決まらないなあ。ごめん」
ふふ、と笑いが漏れる。やっぱり相良さんはかわいくて、それでいてとてもかっこいい。
「気にしないでください。私は、そんな相良さんが好きですよ?」
勢いよく起き上った相良さんの顔を見ないようにして立ち上がる。
「何か、作ります。お夕飯、遅くなっちゃいましたね」
冷蔵庫、何があったかな。急いでご飯、炊かなくちゃ。
「俺も、手伝うよ」
相良さんも立ち上がって、キッチンに向かう私についてきた。
「あ、じゃあお米を……」
言って振り向いた私の腕を相良さんがひいた。
初めてのキスは、コーヒーの香りがした。
☆
「信乃ちゃん」
改札を出ると、相良さんが待っていた。
「遅くなってごめんなさい」
「ううん、俺も今来たところだから。今日も仕事お疲れさま」
私たちは並んで歩き出す。
あれから私たちは正式に付き合いだして、こうやって仕事帰りは家まで送ってもらうようになった。
相良さんの時間が合う時、という約束だったんだけど、結局ほとんど毎日ここで相良さんは待っていてくれる。
「お仕事は大丈夫なんですか?」
あまりにも毎日お迎えにきてくれるので、無理しているんじゃないか、って気がしてくる。
「大丈夫大丈夫。うちの上司も信乃ちゃんには負い目があるから、お迎えでーすって言うとあっさり帰してくれるよ」
相良さんのお仕事の時間は、特に決まってはいない。バイト、と本人が言っているように、必要な時に呼び出されて手伝う、みたいな感じらしい。
「私は嬉しいですけど」
ぼそ、と言うと、小さな声だったにも関わらず相良さんは気づいて微笑んだ。
「俺も、信乃ちゃんに会えて嬉しいよ」
言いながら、私の手をとって指を絡める。それだけで、私の体温がかかかとあがってしまう。
「そ、それはそうと、あの、私、謝らなければいけないことが……」
「ん? どうしたの?」
「実は、今度の日曜日、急な予定が入ってしまいました。すみません」
日曜日は、相良さんとデートで水族館へ行く予定だった。
「え、そうなの?」
「はい。父がこちらへ出張に来るついでに母もついて来るらしいので、久しぶりに一緒に食事でもどうか、と言われまして」
多分、食事は口実で、一人暮らしをしている私を心配して見に来てくれるんだと思う。それがわかるから、迷ったけどそっちを優先してしまった。
言い訳がましくそんなことを告げると、そう、と言ったきり相良さんは黙り込んでしまう。
あ、気を悪くしたのかな。
申し訳ないという気持ちと、デートを楽しみにしていてくれたのかなという嬉しい気持ちが入り混じる。
「ごめんなさい、来週は必ず……」
「信乃ちゃん」
「はい」
「その……俺も一緒に行っちゃだめかな」
「え?」
「君のご両親に、俺もご挨拶したいんだ」
とくん、と胸が音を立てる。
「一度ちゃんとご両親に挨拶しておきたいと思っていたんだ。将来のためにも、変な奴とつき合っていると心配させたくないし」
絡めた相良さんの指に力が入る。
将来。それって。
「だめかな?」
つないだ相良さんの腕にそっと顔を寄せる。
だめなわけない。とっても、嬉しい。
「どうしようかな」
けれど、わざとそんな風に言って、指を離すと相良さんの前を歩き始めた。
「信乃ちゃん」
「だって相良さん」
困惑するような相良さんの声を聞きながら、振り向かずに続ける。こんなにやにやした顔、見せられないじゃない。
「私の両親に挨拶する前に、私に言うべきことがあるんじゃないですか?」
将来の話なんて、今初めて聞いたもの。また自分勝手に話を進めようとするんだから。
相良さんの足音が止まった。
「浅木信乃さん」
落ち着いた、でもちょっと緊張感のある声が聞こえて、私はゆっくり振りかえる。
大好きな人から、大切な言葉を受け取るために。
Fin



