職員会議が終わって帰る頃には、すっかり暗くなっていた。
いつも声をかけてくる小野先生は、本当にぴたりと私に話しかけてこなくなった。恋人がいる女には興味がないんだろう。なんにしろ、これでようやく安心して出勤できる。
「小野先生、よかったらこれからお食事でもどうですか?」
その代り、沢田先生と山口先生が小野先生を誘っていた。
「ありがとうございます。けれど、今日はこれから用事がありまして。ぜひまた誘ってください」
「まあ、それは残念です」
そんな会話を背にして、いつもとは違う軽い足取りで私は職員室を出た。
改札から出ると、遅い時間のせいか人はまばらだった。淡い期待を抱いてあたりをみまわすけれど、相良さんの姿はない。
時間も言ってないし、当然だよね。それでも、ちょっと寂しいなんて思っている。
私は、スマホを取り出す。今とても、あの笑顔が見たかった。
迷ったけれど、連絡をするのはやめた。
なんて言って電話すればいいのかわからないや。小野先生の件が片付いたら、相良さんだって私にはもう用はないかもしれないし。ただのご近所さんなんだし。
それでも、未練がましくいつものスーパーに寄ってみる。店内をうろうろしてみたけれど、相良さんは見つけられなかった。
今日はお仕事早いって言っていたから、もう帰っちゃったのかな。
ほんの少しでも、会って話をしたかったな。
そんな風に考えている自分に気づいて苦笑する。
私、思っているよりずっと、相良さんの事好きなのかも。
結局何も買わずにスーパーを出て、部屋に帰ることにした。
アパートの階段をあがって、部屋の鍵をあけた、その瞬間だった。
どんっ。
いきなり突き飛ばされて、私は部屋の中に倒れ込む。
「きゃっ!」
「静かにしろ」
後ろ手にドアを閉めたのは、小野先生だった。全身の血の気が引く。
「お……の、せんせい?」
「誰もいないな」
小野先生は、暗い部屋に目を向けていた。
「なんで……」
声が震えた。立とうとしたけれど、足に力が入らない。そんな私の横に、小野先生はしゃがみ込む。外からの淡い光に、小野先生のめがねがざらりと光った。
「言ったでしょう? 私は、あきらめないと」
「だからって、こんな……帰ってください! 人を呼びますよ!」
「やれるもんならやってみろよ」
言うなり小野先生は、私の口を手でふさぎながら、私をその場に押し倒した。
「!」
「おとなしそうな女だと思って声をかけてやったのに。俺を馬鹿にした報いだ」
静かに笑うその顔が怖かった。
「静かにしていれば、痛い思いはしないですむ。いや、逆に気持ちよくしてやるよ」
「……いやっ!」
私が暴れると小野先生は手を離したけれど、その分、体を押さえつけられてしまう。
「こんなの、犯罪ですよ?! 何考えているんですか?!」
「うるさい。女のくせに、俺にたてつこうなんて思いあがるな。どうせ女なんて、抱いちまえばこっちのもんだ」
「お、女だからって……馬鹿にしないでください!!」
私は、目の前にあった小野先生の腕に思い切り噛みついた。
「痛っ! なにしやがる!」
「力で思い通りになるなんて思わないで! 私はっ……」
「浅木さん!」
その時、ドアが開いた。
は、として小野先生が振り返る。直後、すごい音がして小野先生が吹っ飛んだ。
何が起こったのかわからずぽかんとしていると、私の上を飛び越して誰かが部屋の中に飛び込んでいった。
「こい、つ……!」
「おらあっ!」
「相良さん?!」
狭い廊下でもつれているのは、相良さんだった。小野先生が、相良さんの腕をつかむのを見て、は、とする。
そうだ、小野先生、武道のできる人だった。
手助けしようにも、狭い廊下では私が近寄ることもできない。その場で体をおこして座り込んだまま、私は二人の様子を見守るしかなかった。
いつも声をかけてくる小野先生は、本当にぴたりと私に話しかけてこなくなった。恋人がいる女には興味がないんだろう。なんにしろ、これでようやく安心して出勤できる。
「小野先生、よかったらこれからお食事でもどうですか?」
その代り、沢田先生と山口先生が小野先生を誘っていた。
「ありがとうございます。けれど、今日はこれから用事がありまして。ぜひまた誘ってください」
「まあ、それは残念です」
そんな会話を背にして、いつもとは違う軽い足取りで私は職員室を出た。
改札から出ると、遅い時間のせいか人はまばらだった。淡い期待を抱いてあたりをみまわすけれど、相良さんの姿はない。
時間も言ってないし、当然だよね。それでも、ちょっと寂しいなんて思っている。
私は、スマホを取り出す。今とても、あの笑顔が見たかった。
迷ったけれど、連絡をするのはやめた。
なんて言って電話すればいいのかわからないや。小野先生の件が片付いたら、相良さんだって私にはもう用はないかもしれないし。ただのご近所さんなんだし。
それでも、未練がましくいつものスーパーに寄ってみる。店内をうろうろしてみたけれど、相良さんは見つけられなかった。
今日はお仕事早いって言っていたから、もう帰っちゃったのかな。
ほんの少しでも、会って話をしたかったな。
そんな風に考えている自分に気づいて苦笑する。
私、思っているよりずっと、相良さんの事好きなのかも。
結局何も買わずにスーパーを出て、部屋に帰ることにした。
アパートの階段をあがって、部屋の鍵をあけた、その瞬間だった。
どんっ。
いきなり突き飛ばされて、私は部屋の中に倒れ込む。
「きゃっ!」
「静かにしろ」
後ろ手にドアを閉めたのは、小野先生だった。全身の血の気が引く。
「お……の、せんせい?」
「誰もいないな」
小野先生は、暗い部屋に目を向けていた。
「なんで……」
声が震えた。立とうとしたけれど、足に力が入らない。そんな私の横に、小野先生はしゃがみ込む。外からの淡い光に、小野先生のめがねがざらりと光った。
「言ったでしょう? 私は、あきらめないと」
「だからって、こんな……帰ってください! 人を呼びますよ!」
「やれるもんならやってみろよ」
言うなり小野先生は、私の口を手でふさぎながら、私をその場に押し倒した。
「!」
「おとなしそうな女だと思って声をかけてやったのに。俺を馬鹿にした報いだ」
静かに笑うその顔が怖かった。
「静かにしていれば、痛い思いはしないですむ。いや、逆に気持ちよくしてやるよ」
「……いやっ!」
私が暴れると小野先生は手を離したけれど、その分、体を押さえつけられてしまう。
「こんなの、犯罪ですよ?! 何考えているんですか?!」
「うるさい。女のくせに、俺にたてつこうなんて思いあがるな。どうせ女なんて、抱いちまえばこっちのもんだ」
「お、女だからって……馬鹿にしないでください!!」
私は、目の前にあった小野先生の腕に思い切り噛みついた。
「痛っ! なにしやがる!」
「力で思い通りになるなんて思わないで! 私はっ……」
「浅木さん!」
その時、ドアが開いた。
は、として小野先生が振り返る。直後、すごい音がして小野先生が吹っ飛んだ。
何が起こったのかわからずぽかんとしていると、私の上を飛び越して誰かが部屋の中に飛び込んでいった。
「こい、つ……!」
「おらあっ!」
「相良さん?!」
狭い廊下でもつれているのは、相良さんだった。小野先生が、相良さんの腕をつかむのを見て、は、とする。
そうだ、小野先生、武道のできる人だった。
手助けしようにも、狭い廊下では私が近寄ることもできない。その場で体をおこして座り込んだまま、私は二人の様子を見守るしかなかった。



