ユリシスは内容が気掛かりだったが、今回の訪問に関しては、ラビが尋ねたい事があるというので連れて来たのだ。仕事に関わる情報だった場合を考えて、大人しく黙っている事にした。

 グリセンは胃薬を飲んで落ち着くと、立ったままだった二人に、ようやく応接席のソファに腰かけるよう促した。

 グリセンの隣にはユリシスが、ラビは二人と向かい合う形で腰を落ち着けた。

「氷狼の件が発生する前、氷山の方で人が死んだと思うんだけど、詳細を教えて欲しいんだ」
「誰かから聞いたのか?」
「えぇと、まぁ、そう」

 質問の仕方を間違えた、と内心焦りつつも、ラビはどうにか冷静を装って返事を待った。

 グリセンは訝しむように前髪をかき上げたが、目の前の少年が、獣師として今回の事件に協力してくれている事を思い出し、自身の記憶を辿った。

「……確か、金品狙いの賊に商人が襲われた事件があったな。運悪く害獣に殺されいて、両者の死亡でその件に関しては終わったのだけれど……それが、何か?」
「荷物はあった?」

 すぐに問い返され、グリセンは促されるまま、更に記憶を辿った。

 殺された男のそばには大きな荷袋はあったが、ほとんど中身は入っていなかった。近くで死んでいた男の持ち物に、金品が詰まった荷物があった事から、窃盗を働いたのだろうと推測された事を彼は教えた。

 ラビは、ノエルの推理の裏付けが取れたような気がして、やや興奮した目を上げ、テーブルから身を乗り出した。