漆黒の大きな狼は、昔話の中では死の使いとして表現されている事が多い。それを気にしているのだろうかと、ラビは分からず首を捻った。

『妖獣は結局のところ、使い手に従わなければ人界で力を使う事もできない――だがある日、唐突に【月の石】が登場した訳だ。人界に興味を持った連中が【月の石】を使って暴れ始め、使い手側と妖獣側の偉い奴らが地上に出ている【月の石】を消して、出ていない分を大地の奥に封じたんだよ』

 半ば投げやりに、ノエルはそう説明した。ラビは話を頭の中で整理したが、一つ疑問を覚えた。

「【月の石】がこの町にあって、どうして氷狼なわけ? 氷狼も妖獣なの?」
『あいつらは聖獣だ。魔獣、妖獣、霊獣と、こっちの世界も色々あってな。妖獣世界で一番多いのが雑魚の【悪鬼】だ。唯一命を持たない亡霊みたいな存在だから、食っても腹は膨れねぇし、低知能で厄介な事しかしない。つまるところ良い事が一つもない連中ってこった』