「妖精って、絵本に書かれてる不思議な力を持った生き物だろ? あまり想像はつかないけど、オレには、ノエルがいるから信じられるよ」

 ラビはふわりと微笑んだのだが、途端にノエルの大きな右前脚が、彼女の顔を押さえてきた。

「ひどいよッ、何すんのさ?」
『呆けた面見せてんじゃねぇよ。お前その顔、ガキの頃のまんまだぞ。成長がなくて逆に怖ぇよ』

 彼は照れた顔を隠すように一度視線をそらせたが、前足を下ろして話しを続けた。

『妖獣は、種族によっては、お前が言うような不思議な力とやらを持ってる。妖獣世界との道が繋がる満月の明かりの下でのみ、使い手なしに実体化出来るのが特徴だろうな。簡単に言うと、強い月の光を利用すれば、普通の人間にでも姿を見せる事が出来る』
「なんで黙ってたのさ。そうだったら、父さん達にも紹介してあげられたのに」
『見せられるかよ……引き離されるのがオチだぜ』

 ノエルは苛立つように鼻頭に皺を刻み、不貞腐れた声で呟いた。