「妖獣ねぇ……。ノエルの他にも見えない動物がいるって事は、ノエルって本当に普通の狼じゃなかったんだ」
『だから、最初からそう言ってんだろが。普通の狼は、サンドイッチとか果物も食わねぇってのッ』

 ノエルは呆れたように言うと、その場に腰を降ろした。金緑の静かな眼差しで、しゃがむラビを覗き込む。

 数秒ほど、黙りこんだまま至近距離から見つめ合った。冷気を含んだ風が、ラビの金色の髪と、ノエルの黒い毛並みの先を絡め合った。

『……お前、出会った時から俺を怖がらなかったもんな。妖獣って聞いて、怖くないのか?』
「オレ、その妖獣っていうのがよく分からないんだけど。つまりアレだろ? ノエルみたいにお喋りが出来て、普通の動物よりも運動神経が高くて、誰の目にもいないように見えるような、不思議な動物」

 すると、ノエルはどちらともつかない私情を滲ませて、僅かに目を細めた。

『――種類にもよるが、人界の動物の形から外れた奴らが多い。まぁ俺達は、妖精だとか化け物だとかいう存在みたいなもんだ』