大地にようやく足がつくと、無事に到着した安堵感が込み上げて、ラビは身体の強張りを解くように吐息をこぼした。

 地面は硬い大地に覆われているが、はるか向こうでは、白い雪が降り積もって氷山の頂きが覗いていた。吹き抜ける風には冷気が混じっているが、雪が積もる土地と隣り合わせだとは思えない。

 あの雪を境目に、向こうは強烈な寒気の溜まり場になっているのだと、ノエルが説明した。

 季節の変動で、暖気と寒気の流れが変わるのが基本的だが、一部の土地では、そういった変動現象が全く起きない場合がある。広大な大陸では、全く異なる季節が隣合わせで存在している場所もあるという。

 とはいえ、氷山からラオルテの町までは、ざっと目測しただけでも相当な距離がある。

 ラビが「こっちに来るまで時間が掛かりそうだけど」とちょっとした疑問を口にすると、ノエルが『氷狼の脚力をナメんなよ』と忠告した。

 人間側には詳細の記録が残されていないが、氷狼は、走り出して数分足らずで劇的にスピードが加速し、その際の時速は動物界でも最速を誇るらしい。走る距離が長いほど速度が増す特徴があり、鉄砲玉のように大地を突き進むため、肉眼では遠目での視認も難しいのだとか。

「ということは、その速さを出せるぐらいに身体が丈夫ってわけか」
『まぁ、そういうこった。長距離を一瞬で駆け抜ける姿は凄まじいもんだぜ? いつもは尖っている身体も、風の抵抗を最小限に抑えるため閉じられて、空気中の冷気が集められて足音も消える。とにかく無駄がない』

 ラビとノエルは、町から離れるようにしばらく歩き続けた。