ユリシスは、ライフルを塀に立てかけると、サーバルの問いに答えるよう振り返った。

「彼は他の獣師と違い、何かしら確信のある物言いをしていたので、許可しました。……あと、引きとめるのも面倒になりましたし」
「後者が本音ですよね!? ちょ、僕の目を見て言って下さいユリシス様ッ」
「サーバル落ち着けって。多分、団長がぶっ倒れるぐらいで済むから」
「あんたは落ち着き過ぎですよヴァン先輩!」

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 屋上でそのような会話が繰り広げられていた頃、ラビは、早々に梯子の中央まで下りて来ていた。

 頑丈な鉄で作られた梯子の上は、山から下りてくる初夏の風が強く吹いていた。木の防壁には大きな爪跡が複数残されており、梯子にも真新しい引っ掻き傷が見られた。

 ノエルは屋上から飛び降りると、翼が生えているような軽やかさで地面へと着地していた。砂利を踏みしめ、辺りの臭いを嗅ぎ、ラビを見上げる。

『早く降りてこいよ』
「早くとか無理。ここから飛び降りたら大変な事になるからッ」

 ラビは口の中で愚痴り、誤って手足を滑らせないよう慎重に地上を目指した。