伯爵と夫人は、怪我と発熱に苦しむラビを手厚く看病した。家事をした事があまりなかったラビは、世話になった二ヶ月の短い間で、最低限必要な生活力を身に付け、一人で生きてゆく覚悟で、長かった髪をばっさりと切った。

 暇があれば七歳、二歳離れた息子達のもとへ顔を出して、一緒に剣術も学んだ。外では金髪金目に対する差別は強かったが、彼女は弱音を吐かなかった。

 ラビは元々の負けず嫌いな性格も勝って、売られた喧嘩は全部買った。少年の格好や『秘密の友達』譲りの喋り方、乱暴な態度から男だと勘違いされる事が多くなり、説明するのも面倒になって、男性名のラビを名乗るようになった。

 事故に遭ってから二ヶ月後、ラビは自分の家に戻った。

 両親のように学を受けた訳ではないから、薬草師としての腕は弱かった。村人が危険を感じて踏み要らない森で薬草を採取出来る強みはあったが、両親のように複雑な調合は出来ない。

 悩んでいたラビは、自分が動物と話せる能力が、獣師としての仕事に向いているのではないかと考えた。

 人語を理解出来る動物は、他人には聞こえない声でラビに直接話しかけてくる。話せない動物も、どうやらラビの言葉は理解出来るようで、「こういう理由があるからこうして欲しい」と伝えると、素直に従って協力してくれた。

 元々、森の動物が村にいかないよう働きかけていたラビは、薬草師兼業で、獣師としても活動する事を決めて看板を立てた。獣師が生活に浸透している国とは言え、今のところ、ホノワ村で定期的に獣師の仕事の依頼をくれるのは、いまだ別荘で暮らし続けているヒューガノーズ伯爵夫人ぐらいだろう。