『一昨日に氷狼の襲撃があったって、外の猫が噂してたぜ』

 彼はそう報告しながら、ラビの近くにきて座りこんだ。慣れない土地だというのに、緊張感もなく大きな欠伸をかみしめ、落ち着いた面持ちで優雅に尻尾を揺らせる。

 その時、キッチンの奥から出てきた中年女性が、そのままノエルの方へ向って歩いて来た。

 彼の尻尾が踏まれてしまうのではないかと感じて、ラビはギョッとした。しかし、ノエルは中年女性に目も向けないまま、器用に尻尾を上げて回避してしまう。

 女性の足は、先程までノエルの尻尾があった場所を踏みつけた。彼女は擦れ違いざま、セドリックとユリシスに「また昼間に」とにこやかに挨拶をして去って行った。

 二人は女性の挨拶に応えたあと、ラビを挟んで会話を始めたのだが、ラビは左右を飛び交う話の内容が耳に入らなかった。ラビから真っ直ぐ向けられる視線を受けとめたノエルが、ニヤリとした。

『なんだ、俺の尻尾が踏まれると思ったのか? だから言ったろ、普通の人間には見えないんだから、そいつらにとって俺達はいないのと同然なんだよ』
「…………」

 そう、なんだろうけれど……でも、オレは見えているし、だから心配してしまうんだよ。