剣を返してもらったセドリックが、複雑そうな、どちらかと言えば部下達を心配するような目を向け、「こうなったら、もうダメですね……」と諦めたように項垂れた。


 倉庫から鍛練用の木刀が引っ張り出され、予備も揃えられた。全員に木刀が行き渡り、広場の砂地に大きな円状の線が刻まれた後、一対一の木刀戦が開始された。

 まず木刀を構えあったのは、ラビと先程の顎髭の男だった。

 予定になかった木刀の一本勝負に、準備をする中で動揺が収まってきた男達は、半ば面白がって「威勢のいいチビっ子獣師だなぁ」と笑い、「どちらが勝つか賭けようじゃないか」と言葉を交わす者まで出始めていた。

 セドリックは、長旅のストレスで殺気立ったラビへの説得を諦め、渋々審判役に回っていた。両者が木刀を構える姿を確認すると、溜息混じりに、本当に嫌々ながらに開始の合図を告げた。

 開始直後、顎髭男が「せいやぁ!」と木刀を掲げて勢い良く踏みこんだ。しかし、彼が二歩目を踏み出した時、ラビの身体は既に男の背後にあった。

 一瞬で男の背後に回り込んだラビは、木刀を逆手に持ちかえると、男の背後から強かに打ちつけた。衝撃を受けた男の身体が地面に沈む直前、バックステップからスピンをきかせて足を振り上げ、容赦なく男を蹴りつけて場外に叩き出した。

 勝負は一瞬で付いてしまった。

 背中を木刀で強打されたうえ、場外の地面に顔面から強打した男が、事切れたように地面に沈む様子を見た仲間達が、笑顔を凍り付かせて静まり返る。

 ラビは木刀を肩に置くと、見物人と化した他の男達を睨み据えた。小奇麗な顔が月明かりに照らし出され、ラビの金髪と金目がより映える。ゆらりと体制を整えるだけで、殺気と威圧感が鋭く研ぎ澄まされ、男達は次元の違う強敵を前にしたような戦慄を覚えて、思わず唾を呑み込んだ。