共に部屋に入っていたノエルが、つまらなそうに辺りの匂いを嗅ぎ始めた。ラビは、隣でセドリックが躊躇するのも構わず、グリセンに向かって素の口調で言葉を投げかけた。

「なぁ、別に無理に挨拶してくれなくてもいいよ。こういう反応には慣れてるから」
「ぐぅッ、そうじゃないんだ」

 グリセンが腹を押さえながら、喉から絞り出すように声を上げた。

「その、僕は胃腸が弱くてね。最近続いている氷狼の件を考えるだけで……ぅッ」
「大丈夫かよ。その件はセドリックにでも聞くから、もう休めば?」
「いや、昼間も何度も倒れてしまってね。積み重ねた休憩時間が書類作業を押して、今、僕の仕事がとんでもない事になる一歩手前なんだよ。ここで投げ出すわけにはいかな――うぐッ」
「あんた、面倒な性格してんなぁ」

 初対面に指摘されたグリセンが、痛みを堪える涙目を、そぉっとぎこちなくそらした。精神的にダメージが続くような状況があり、それが彼の胃腸を追いつめているらしいと、ラビは何となく察して同情した。