町の唯一の出入り口は、西側に設けられた巨大な木の門のみとなっており、年の半分以上が雪に覆われるため、三角の屋根や煉瓦造りの建物がほとんどだった。

 資源が多く採取出来る土地であるラオルテでは、地下から採取できる鉱石をもとに、特に鉄鋼産業が盛んで業者の出入りが多く、夜でも町は賑わっていた。元の住民は黒髪黒目で黄色い肌をしており、余所からやってきた大勢の人間との見分けがよくついた。

 騎士団が所有し、視察や仕事の際に拠点の一つとして利用している警備棟は、町の東側の防壁にぴったりと背中を合わせていた。

 屋上は見張り用に平たく造られており、雪が降る日は、町に在沖している警備隊の人間が頻繁に雪降ろしを行うらしい。屋上には非常用の梯子が設置され、外で異変があった場合、すぐに騎士達が防壁の外に降りられる仕様になっている。

 そんな警備棟は、高いコンクリートの塀を持っていた。中に入ると面積のある砂利の広場が続き、そこから自由に出入り出来るよう建物の一階広間は開けている。

 広間は休憩の場として設けられており、その隣は食堂となっていた。上の階には、執務室や応接室といった仕事用の部屋があり、三階から五階が簡易宿泊室となっている。

 王宮騎士団は、王直属の部隊として王宮に腰を構える王宮騎士団本部と、各地の治安を収める二十三の支部があった。

 第三騎士団は、王都に本拠点となる支部を構えてはいるが、各地への派遣も受け持つ若く実力ある部隊として構成されており、それを取りまとめる団長も、三十半ばと比較的若かった。

 第三騎士団の団長は、グリセン・ハイマーズという童顔の男だった。騎士にしては細身であり、困惑しきった顔は、気の弱い草食動物のようにも見えた。

 襟足だけ伸ばしたアッシュグレーの長い髪を背中で束ね、眼力のない可愛らしい青緑の瞳をしている。闘う戦士というよりも、机で書類作業に向かう平凡な公務官に見える男だった。