ラビが考え込むと、ユリシスも難しい顔をした。

「氷狼の異常行動については、今のところ原因が分かっていません。害獣の調査を扱ってくれる獣師も少ないですし、氷狼を追い払えるほどの動物もいないので対策の立てようもないという訳です」
「だから、オレに現場の状況を見てほしいってわけ?」
「はい」

 ラビは「ふうん」と答えながら、ノエルに目配せした。このまま狂ったように氷狼が死んでいくのも気が引けるし、怪我人が出てしまう事態も解決してあげたいという気持ちはある。

 実際に人が死んでしまったら、もう取り返しはつかない。

 長い事考えたラビは、深く息をついて仕方なく答えた。

「……わかった、オレに出来る範囲内で協力する。それから」

 そこで、ラビは一度言葉を切って、セドリックに右手を差し出した。

「伯爵夫人のスコーン持ってるんだろ、寄越せ」

 ラビは別荘を出る際に、伯爵夫人がセドリックに持たせていた事に気付いていた。だからこそ、力づくで追い返す行動には出なかったのだ。

 セドリックがきょとんとし、それから、柔かな苦笑を浮かべた。

「やっぱり食べたかったんじゃないですか。でも、寄越せという言い方は品がないですよ」
「うるさい」

 ラビは小さく言い返したが、甘いスコーンを頬張ってすぐ、警戒心のようなその眉間の皺があっさりと消えた。知らず子供のように笑う彼女を見て、セドリックが微笑んでいる事にも気付かないでいた。

 自分でビスケットを焼く事はあったけれど、やっぱり、伯爵夫人の作るスコーンが一番美味いとラビは思った。