ノエルの尻尾の動きが優雅過ぎるせいだと、ラビは内心八つ当たり気味に舌打ちした。

『なんだよ、俺なんも言ってねぇだろ』

 視線に含まれる言葉を察したノエルが、床に伏せたまま、呆れたようにラビを見つめ返した。

 ラビは、一番落ち着ける自分の家の中でありながら、彼と言葉を交わせない状況をもどかしく思いつつ、コップをテーブルの上に戻した。ノエルと目を合わせたまま頬杖をつくと、ノエルも、ラビの不貞腐れた視線を受け止めながら組んだ手の上に顎を乗せた。

『俺のせいじゃねぇからな?』

 分かってるよ、オレがうっかりしてただけ。

 ラビは目で答えながら、セドリックが納得してくれるような説明を考えた。

「……昔から考えてはいたんだ、自由気ままな旅もいいよなって。ずっとタイミングが掴めなかったけど、ちょうど一段落出来そうだから、近いうちにここを出ようかと思って」
「誰かに相談したんですか?」
「相談なんていらないよ。残る家に関しては村の連中に全部譲るし、オレがどいたら、それなりに有効活用出来ると思う」
「僕は反対です」

 セドリックが立ち上がった。眉を潜め、非難するような眼差しでこちらを見降ろしてくる様子を横目に見やり、ラビは、面倒な説教が始まる事を予感してそっぽを向いた。