「こちらとしては結構、切羽詰まっているのですがね。氷山を抱えるヴィルドン地方は現在夏ですが、雪も氷もない町に氷狼が降りて、怪我人まで出てしまっているのですから」
『妙な話だな。氷狼にとって、暖かさは毒だぜ』

 外から戻ってきたノエルが、ラビのそばへ身を滑らせながら怪訝そうに言った。

 ラビは、図鑑で見た氷狼の絵と生態を思い浮かべた。確かに、氷狼の性質を考えれば妙な現象ではあるのかもしれない。彼らの血肉は暖気を奪う力は強くとも、彼ら自身は取り込んだ暖気を冷却する機能が弱いとは書かれていた。

「……まぁ、話なら聞いてやってもいいけどさ。はじめにも言ったけど、オレには図鑑に載っている程度の知識しかないから、アドバイス程度にしかならないよ」
「だから、現場を見てもらった方が早いという話になっていて……」

 セドリックが、非常に言いにくそうに、ぼそぼそと口にした。

「あ? どういう事だよ」
「……えっと、実は話を聞いて欲しいというより、本題としては、ラビにはこれから、僕たちと共にヴィルドン地方に来て欲しいんですよ」

 ヴィルドン地方は、ここから一番速い馬車を飛ばしても一晩はかかる距離にある広大な土地だ。その中でも辺境の町であるのなら、恐らく数日はヴィルトン地方内を馬車で進む可能性もある。