伯爵夫人は、ラビを自分の娘のように可愛がってくれていた。一度好意に甘んじてしまったら、気を利かせて、今度はラビのために毎日でもスコーンを作ってしまいそうな予感もある。

 スコーンは大好きだし、甘いお菓子も、伯爵夫人の『お母さん』みたいな温かさも大好きだが……これ以上の迷惑はかけたくない。薬草師や獣師として仕事をもらい生活していけるか、彼女はラビをいつも心配しているのだ。

 ラビはぐっと我慢して、ビアンカを抱えたまま彼らの脇を通り過ぎた。セドリックとユリシスも、当然のような顔でついて来た。

「ラビ、こっちを見て下さい。怒っているのなら謝りますから」
「怒ってないし、謝られるような事もされていない。つか、前もってハッキリ断っておくけど、慈善協力の要請については断固拒否する」
「ちゃんと報酬は出ますよ。でも、まぁ、僕もあまり乗り気ではな――」

 すると、ユリシスが、セドリックの言葉を遮るように「副団長」と言って眼鏡を押し上げた。それでは何のために迎えの馬車を立ち寄らせたのか分かりませんよ、と彼は嫌味ったらしく言葉を続ける。