ビアンカが満足げに喉を鳴らし、『好きよ、ラビィ』と濡れた鼻先でラビの鼻頭に触れた。ラビは答えられないかわりに、顔を伏せたまま小さく微笑んだ。何故か、遠い昔に置いて来た寂しさを覚えた。

 その時、ラビは名前を呼ばれて顔を上げた。

「ラビ、――少しスコーンを食べていきませんか? 母上が沢山用意してくれているんですよ」

 好きだったでしょう、とセドリックが優しく訊いて来る。

 ラビは鼻白むと、「何の話だよ」と眉を顰めた。

「僕が戻った時、いつも食べているじゃないですか」
「お前が戻って来るタイミングで焼いてくれているから、ついでに食べてるのッ」

 ユリシスに誤解されたくなくて、ラビはふざけんなとばかりに強く言い返した。

 伯爵夫人が用意するスコーンは、ジャムもいらないほど甘く作られている。子ども達が大きくなってもそれが変わらないのは、夫である伯爵が甘糖なせいだ。

 四年前、長男が一時帰宅した際にも、大量のスコーンが用意されていたが、彼はそこまで菓子が食べられる男ではなかったので、ほとんど父親が意気揚々と食していた。タイミング良く居合わせたラビも、勿論喜んで食べた。