ビアンカを抱き上げ、立ち上がりざまに振り返りながら、ラビは嫌悪感を露わに言い放った。

「お前ら、暇なのか?」
「母上から話を聞いたので、様子を見に来たんですよ」

 やって来たのは、セドリックとユリシスだった。セドリックは困ったような微笑を浮かべたが、ふと心配するようにラビを見つめ、それから辺りに少し目をやった。

「ラビ。さっき誰かと話していませんでしたか?」
「気のせいだろ。ビアンカの尻尾に小さな棘が刺さっていたんだ。抜いたから、もう平気だよ」

 ラビは窓枠に手を置くと、持っていたピンセットをさりげなく窓の外に落とした。それをノエルがさっと拾い上げ、二階のテラスまで跳躍した。

 小さな風が巻き起こり、ラビと、ビアンカの柔らかい髪と毛並みを揺らめかせた。その様子を見つめていたユリシスが、訝しげに眉を寄せた。

「何か捨てませんでしたか」
「ビアンカに刺さっていた棘を捨てただけ」

 ラビは横目で答えつつ、ビアンカの頭を撫でた。