「ありがとう、ノエルッ。あ、まだ入ってきたら駄目だよ」
『入ってきたらただじゃおきませんわよ』

 間髪置かず、窓の下からビアンカが唸った。

 ノエルは途端に顔を顰めると、『わかってるってのッ』と舌打ちし、今度はどこへも行かず、窓の外にどかりと腰を降ろした。

 ラビは、ビアンカの尻尾の部分の毛をかき分けて、棘の刺さった箇所を改めて確認し、ピンセットで慎重に棘をつまんで引き抜いた。ビアンカは一瞬痛みに爪を出したが、すぐに安堵の息を吐いた。

『違和感がとれましたわ』
「それは良かった」
『ふんっ。木登りして刺さるとか、鈍感な小娘だな』

 状況を察したノエルが、窓の向こうから愚痴るような口調で呟いた。ビアンカが両耳を立て、見えないノエルに向かって強く反論した。

『外野のくせに煩いですわよ!』
『図星だろうが』
「上から目線は良くないよ。ノエルだって、散歩の時に棘が刺さっ――」

 その時、ビアンカがラビの膝の上に飛び乗り『ラビィ静かにッ』と素早く囁いた。


『ラビィ、人間が来ましたわ』


 ラビは、遅れて二組の足音に気付いた。横目でそれが誰であるか確認が撮れた瞬間、なんで来るのかな、と憂鬱になって憮然と唇を引き結んだ。