ビアンカが指摘した部分には、ラビの推測通り、顔を近づけないと確認出来ないほどの小さく細い棘が刺さっていた。

「ビアンカ、棘が刺さってるよ」
『あらまぁ、そうなの?』

 刺さっているような痛さは感じていなかった、というようにビアンカが目を丸くした。ラビは刺を抜く方法について素早く逡巡したが、どうもピンセットがないと取れそうにない細さだ。

「ごめん、今持ち合わせの道具がなくて……ピンセットを使いたいんだけど、何処にあるか知ってる?」
『確か、二階の奥様の化粧台の上にあったような気がするわ』

 ラビは数秒ほど考え、伯爵夫人にピンセットの件を相談しようと思って、ひとまずビアンカに「動かないでね」と告げて歩き出した。

 しかし、居間のある方向から複数の話し声が聞こえる事に気付いて、ラビは足を止めた。聞き耳を立ててみると、どうやら戻ってきたセドリックとユリシスを、伯爵夫人がもてなしているようだと分かった。