ラビは次の廊下の角を曲がり、午後の日差しが差し込む場所で足を止めた。

 窓辺には、花瓶を乗せた円形台が置かれており、その下で大きな白い猫が上品に腰を降ろしていた。猫はラビの足音に気付くと、丸いサファイヤの瞳を向けた。

『ようやくいらっしゃってくれたのね、ラビィ』

 猫のビアンカは、ラビを見るなり上品な声でニャーと鳴いた。

 しかし、彼女はラビの後ろで足を止めたノエルの姿を認めると、やや眉根を寄せて『むさ苦しい狼ねぇ』と低い声を出した。

『あなたが立っているだけで、うちの廊下が狭く見えるから不思議ですわ。今からラビィと、女の子同士のお話をしますの。気をきかせて何処かへ行ってくれないかしら』
『ちッ、相変わらず態度がデカイ小娘だな。元気じゃねぇかよ』

 ノエルは苛立ったように床を踏み鳴らしたが、ラビの視線に気付くと、『分かってるって』と踵を返して、来た道を戻っていった。

 彼の姿が完全に見えなくなると、ビアンカは満足げに微笑んだ。