ノエルが呆れたように息をついて、『おい、ラビ』と呼んで、鼻先で彼女の背中を軽くつついた。ラビは我に返り、こちらを見つめている伯爵夫人に慌てて言い直した。

「あのッ、ビアンカの様子はどうですか?」
「ここ数日、食も少し細いみたい。廊下にある台の下から、あまり出て来ないのよ……。そうそう、スコーンがまだ沢山余っているのよ、食べていかない? あなたも好きだったでしょう?」

 伯爵夫人は、まるで母親のように優しく目を細めた。

 ラビは甘い物は大好きだが、これまで堂々と宣言した事はなかった。自立してからは特に、甘えるような事を口にしてしまうのを恥ずかしく感じて戒めていたし、それに、こんな可愛くもない性格で菓子類が好きだなんて、不似合いだと笑われてしまうような気もしていた。ノエルになら何でも話せるのに、他の誰かには抵抗があった。

 くそぉ、めちゃくちゃ食べたいッ。

 内心の葛藤を抑え込み、ラビは、どうにかスコーンの誘惑を退けると「ビアンカを見てきます」と夫人に断りを入れて、足早に奥へと進んだ。