ラビが俯く様子を、セドリックは不思議そうに見つめた。彼はしばらく考えるように視線を往復させ、それから「一つ訊いてもいいですか?」と唐突に口を開いた。

「獣師は害獣を払う為に銃を使う事が多いですが、ラビは使いませんよね。何かコツはあるんですか?」

 動物と話せるとカミングアウトする事は出来ないし、信じて貰えるはずもない。

 ラビは視線をそらしたまま、唇を尖らせてこう答えた。

「怪我したら、動物だって痛いんだよ。銃なんて使ったら余計混乱するから、相手の動物の特性なんかを把握したうえで対応策を考える……それだけ」

 明後日の方向を向いて、片方の腰に手をあててラビは言葉を切った。

 二回ほど瞬きしたセドリックが、やや背を屈めた。彼はラビと視線の高さを合わせると、「ラビ」と柔らかい声で呼んだ。

「ラビ、こっちを見て下さい」
「なんで」
「だって、あなた、話す間も僕の方を見ていないんですよ。話しをする時は、相手の顔を見るのが礼儀で――」
「わかってるって! また礼儀とか教養っていうんだろッ。お前、いちいちそういうの細かいッ」

 ラビが小事を遮るように睨みつけると、セドリックは一瞬の間を置いて、それから「ようやく目が合いました」と困ったように笑った。

 その時、伯爵の別荘入口から一人の騎士団服の男がやってきて「副団長」と抑揚のない声を上げた。彼は、セドリックの向かいに立つラビに気付くと、秀麗な眉を怪訝そうに持ち上げた。