あの日、ホノワ村は朝から大吹雪に見舞われていた。

 その狼は群れを守るため、熊との闘いで怪我を負い、腹も空かせて山からここまで降りて来たのだ。手負いだったその狼は衰弱していたが、本能から村にいる家畜の気配を嗅ぎ取って興奮していた。

 しかし、村に入ったら間違いなく撃ち殺されてしまう事は、幼いラビにも分かっていた。だからラビは「お願いだから村には行かないで」と寒さに震えながら、その狼に懇願したのだ。

 長い時間をかけて説得した後、ラビは、手負いの狼を自宅に連れ帰って手当てをした。自分が持っていた少ない食事を分け与え、少し休んで体力が戻った後、彼は群れの元へと帰っていった。


 狼達とは、あれから交流が続いており、村の家畜には手を出さない、村には下りないと軽い調子で言い合った約束が今も守られていた。ラビが困るからと、熊が人里に下りないよう誘導しているのも彼らだ。

「……そんな大昔の事なんて忘れた」

 ラビは、語尾を濁して話題を切り上げた。