最後は喧嘩を売るような失礼な手紙でもあったが、客入りが妙に増えた事は納得出来たし、伯爵夫人が、ようやく王都で家族一緒に暮らせる事は喜ばしい報告だ。ビアンカも、さぞ喜んでいる事だろう。

 ラビは、ルーファスの喧嘩のような文面を忘れる事にして、手紙をしまおうとした。

『ポストの前で何してんだ?』

 先程まで鳥を眺めていたノエルが、ラビが持つ手紙に気付いて歩み寄った。彼は『ちょっと見せてくれよ』と手紙を覗き込み、尻尾でラビの背を優しく撫でた。

『なんだ、伯爵家の長男坊か。ずいぶん強引な文章だな』
「ルーファスは、旅に反対だってさ」
『……なぁ、最後の文面がすっげぇ引っ掛かるんだが』
「そう? 気のせいじゃない?」
『いや、あの長男坊ってあれだろ、人間にしてはちょっとやばい系の――』

 その時、ラビは通りを走る数台の馬車に気付いた。

 先頭にある馬車は、黒塗りで見覚えのない紋章が入っており、それを追うように二台の馬車が続いていた。後方の二台は、見覚えのある王宮騎士団のもので、ラビは「何だろう」と他人事にそれを見つめていた。

 セドリックか、ルーファスの帰省かな?

 先頭を急ぎ走る馬達も立派で、物々しささえあったので、貴族の考える事は分からんなぁと思いながら、ラビは踵を返した。

 その時、黒塗りの馬車から顔を伸ばした一人の男が、ラビの後ろ姿にむかって「ラビィ・オーディンだな!」と耳をつんざくような肺活量で主張した。

 ラビは飛び上がり、ギョッとして足を止めて振り返った。一体何事だと身構えている間に、三台の馬車が彼女の家の前の道で停まった。

 一台目の馬車から急くように降りて来たのは、黒い制服を着込んだ、四十代ほどのいかつい男だった。四角く浅黒い顔をした、鋭い眼光と濃い眉をした黒髪黒目の中年男は、あっという間にラビの眼前までやって来た。