手紙の差し出し人は、ルーファス・ヒューガノーズだった。

 セドリックの四歳年上の兄であり、ヒューガノーズ伯爵家の長男である。定期的に手紙を貰ってはいたが、こんな中途半端の時期に来るのは珍しくて、てっきり、母親のついでに手紙を書いたのだろうと思った。

 手紙には、癖のない綺麗な字でこう書かれていた。


『久しぶりだね、ラビィ。元気に暮らしているかい?

 君が手紙を読み進める事を放棄する可能性を考えて、堅苦しい前置きは省略しておこう。

 日々薬草師と獣師の仕事を頑張っている事は知っていたが、先日はセドリックに協力して見事、氷狼の事件を解決したらしいね。

 ちょっとした君の武勇伝の報告を受けた時は、大いに笑わせてもらった。でも危ない事は、あまりしないようにして欲しいとも思う。騎士団にも面子というものがあるから、打ち負かした事は、私達だけの秘密にしておこう。

 そういえば、ラオルテの一件で、怖い物知らずの風変わりな獣師の話しが伝わっているらしいけれど、知っているかい? 

 商人や旅人も多い町だから、恐らく君の事を知っている人でもいたんだろう。調べさせたら、

「剣をふりまわして、害獣も診る金髪金目の風変わりな獣師だけど、実は私のお得意先の薬草師でもあってね」

 と語っている、やたら元気な医者がいたそうだけど、多分心当たりはあるだろう? 君には『ゲンさん』と呼ばれていると、誇らしげに紹介して回っていたらしいよ。

 それから、近々母上が王都に戻る事が決まったよ。使用人も全て移らせるから、またスコーン三昧になりそうだ。

 あと、今回手紙を出したのは、こちらが本題なのだが、セドリックや他情報提供者から、君が村を出て行こうとしている件を聞いた。