「くっそぉ、礼儀作法なんてクソくらえ!」

 勢い余って右足を振り上げたが、セドリックがひらりと離れていった。ユリシスがどこか苦々しい顔で、言葉使いの悪さを指摘したが、ラビは反省の色もなく二人を睨みつけた。

 どこか少しすっきりとした表情で、セドリックが、申し訳なさそうに微笑んだ。

「すみません、ちょっとした友人のスキンシップだったんですよ。どうか怒らないで下さい」
「どうせ、オレは礼儀作法の一つも知らねぇよ、悪かったな」

 ラビは舌打ちした。

 セドリックは馬車に戻る前に、ラビに「旅の件は保留にしておいて下さいよ」と何度も念を押した。必ず話し合う時間を作りますからと、有無を言わせず強く断言する。

 一体何を話し合えというのだ、とラビは鼻白んだ。旅とは、自由気ままに出ていいものではないのかと彼女が愚痴ると、ユリシスが物知り顔で「旅にもいろいろとあるのですよ」と上司を擁護した。ラビは、やはり彼の事は嫌いだと思った。

 二人を乗せて馬車が出てすぐ、ラビとノエルは、今度こそようやく踵を返して、我が家へと入っていった。