この世界の事を、まだ全然知れていないせいなのか。それとも、セドリック達や、村の子供達、拒絶もせずノエルを受け入れてくれた騎士団の存在があるせいか……

 その時、ラビは強く腕を掴まれて我に返った。

 驚いて振り返ると、まるで悪い夢を見て飛び起きたような顔をしたセドリックがいた。

「どうしたの、セドリック?」
「……あ、その……どこかへ消えてしまうんじゃないかと思って」
「何言ってんの。消える訳ないじゃん、家に帰るだけだよ」

 そばに来ていたユリシスが、伸ばし掛けた手を下ろして「別れの言葉もないのですか。礼儀がなっていませんね」と眉を顰めた。

 ラビは、セドリックの手から解放されると、片方の腰に手を当てて「じゃあな。さよなら」と納得いかぬ顔で首を傾げた。すると、ユリシスが苛立ったように眉間に皺を刻んだ。

「ほんと、君を見ていると無性に腹が立ちますね。挨拶の握手ぐらいあるでしょうが」
「握手?」
『人間の挨拶なんだよ』

 ノエルが、短い息をつきながらそう教えた。