『お前が望むのなら、このまま二人で、誰も知らない何処か遠くへ行こうか』

 囁くように発せられた言葉が、やけにはっきりと耳に触れた。

 柔らかい風が勢いよく山を下って、ノエルとラビ、セドリックとユシリスの身体を打った。

 ラビは、頬にあたる髪を手で押さえた。改めて目を向けると、途端にノエルの金緑の瞳が悪戯っぽく笑った。元気づけようとしてくれているのだと分かって、ラビは「あの日の夜みたいだ」と笑みをこぼして、ノエルの隣に立った。

「ノエルだったら、どこへ連れて行ってくれるの?」
『お前が人間に苦しむのであれば、朝と夜を紡いで、このまま遥か遠くの美しい妖獣世界へ連れて行こうか』

 ノエルが大人びた顔で静かに笑うから、冗談なのか本気なのか、ラビには分かりかねた。まるでプロポーズされているみたいだと思ったが、いつもの優しい冗談なのだろう。

「ずっと遠くにある、ノエルの故郷? うーん、そうだなぁ、そこを目指しながらいろんなところを見て回るのも、きっと楽しいだろうなぁ……」

 少しだけ、それが寂しいように思うのは、どうしてだろうか。