「僕が戻るときは、いつも用意されているでしょう?」
「そっか、なるほど。お前、甘いスコーン好きだもんな」

 クッキーを食べつつ呟いたラビは、ふと思い出したように「クッキー分けてあげるから」と、袋の口を差し出した。ユリシスは「一枚だけで結構です」と言い、買った当人であるセドリックも、苦笑して同じような事を口にし、クッキーを一つつまんだ。

 馬車は人里を離れ、荒れた大地を走り、途中美しい川の流れにさしかかったが、ラビは風景を眺める余裕がなかった。

 窓に寄りかかったセドリックが、クッキーを食べ進めるラビを可笑しそうに見つめていたのだ。あまりにも飽きず見つめて来るものだから、ラビは居心地が悪かった。

「……何だよ。じっと見るの禁止」
「ラビ。母上のスコーンを、僕がどうして好きなのか知っていますか?」

 唐突に問われ、ラビは少しだけ考えた。

「美味しいから?」
「生憎、あまり甘い物は食べない派です」

 答えながら、セドリックは、疑問符を顔に浮かべるラビに微笑みかけた。