馬車が出発すると、座席に腰掛けていたセドリックが、一つの小袋を取り出した。彼はそれを、「どうぞ」と笑顔で向かい側に座るラビに差し出した。

 ラビは怪訝に思いながら、その小袋を受け取った。

 中に入っていたのは、クッキーだった。袋を空けると、苺のいい香りが鼻についた。

「気に入っていたようだったので、お土産に一つ買っておきました」
「別に、気を使わなくたっていいのに……」

 ラビは強がって唇を尖らせたが、甘い香りの誘惑には勝てず、続く文句もなくクッキーを一枚頬張った。

 甘くて美味しい。思わず顔が綻ぶほど、苺風味がなんとも堪らなかった。

 セドリックの隣で、ユリシスが笑いを堪えて顔を背けた。どうにか笑い声を押し殺しつつも、口に手を当てて肩を震わせる。彼は上司が口にしていた「素直」という言葉を、ようやく完全に理解した。

 ユリシスは冷静さを顔に取り戻した後で、やや口角を引き上げてこう言った。

「戻ったら、多分スコーンも食べられるのでしょうね」
「何でそんな事が分かるのさ?」

 ラビが訝しげに尋ねると、セドリックが、微笑んで説明を引き継いだ。