騒動から数日が経ち、警備棟の内部も片付けられて落ち着きを取り戻した頃、早朝一番に帰りの馬車が一台用意された。

 騎士団の紋章が入った立派な馬車の上で、黒大狼が、暖かい日差しを受けて呑気な欠伸をする光景を、見送りに訪れた男達が神妙な面持ちで見つめた。

「来た時もこうだったよ」
『乗り心地に問題はねぇぞ』

 ラビとノエルは、言葉も出ない男達にそう告げた。

 この数日間で、男達はノエルという特殊な動物が見える利点と、欠点を思い知ったような気がしていた。漆黒の優雅な毛並みを持った大型動物が、馬車の上に寝そべる光景には強烈な違和感がある。

『月の石の効力が消えれば、俺の姿も見えなくなるさ』

 無理やり摂取した事で、副作用が続いているのだとノエルは語った。『まぁ、俺ぐらいの妖獣であれば、見せられる方法はあるんだけどな』と考えるような顔で呟いたが、その声は誰にも聞かれないまま、彼の口に中へと消えた。

 別れの挨拶はしんみりとせず、ラビとノエルの「じゃあな」の二重奏で、あっさりと締めくくられた。騎士団は、共にホノワ村まで同乗するセドリックとユリシスに後を任せて、小さな獣師とその親友を見送った。