安心出来る触り心地に思わず抱きつきたくなるが、お互い怪我人なので、今回は止めておいた。怪我のない彼の尻尾を持ち上げて、ラビは、しばらく自分の腕の中で動こうとする尻尾に頬を当てていた。

『なんだ、やっぱり俺の優雅な尻尾に触りたかったんだろ』

 ノエルはニヤリとしたが、ラビの背後から様子を窺う一同の視線に気付くと『人間に見られるってのは、なんだか慣れねぇなぁ』とうんざりした顔で言った。

 ラビは尻尾から手を離すと、しゃがみこんだままノエルの頭を両手で引き寄せて、自分の額を押し付けた。

 面倒そうに人と話しをする彼が、なんだかいつもより寂しそうな顔をしていない事が、彼女は嬉しかった。それが一時的な事だとしても、いないように扱われるより断然いい。

「怪我が治ったら、またピクニックに行こうよ。朝一番にお弁当を作って、川で虹色の魚を探して、お昼寝して、星を数えながらどこまでも歩いて行くんだ」

 ノエルは、僅かに眩しそうに目を細めた。

 それから『ああ』と、吐息をこぼした。


『……お前が望むのなら、どこへでも』


 ラビがあまりにも嬉しそうに笑うから、ノエルも目を閉じて、小さく微笑み返した。