「ノエルッ、食べちゃ駄目だ!」

 ラビは、彼の耳に届くよう必死で叫んだ。ノエルの口の隙間から零れる赤黒い炎に、強い熱気を覚えて「あつッ」と顔を歪めた時、ノエルがピクリと耳を立てて、動きを止めた。

『……ラビィ……?』

 ノエルは遠慮がちに、すっかり低くなった声でその名を呼んだ。

 低い呟きが地面を這ってすぐ、黒大狼の全身から炎が消え失せ、広がっていた五本の尾が地面に落ちた。

 ラビは、ノエルの口に回した腕に力を込めた。漆黒の獣の口に抱えられた氷狼が、彼の牙に乗りかかったままぐったりとしていた。

「駄目だよノエル、もうやめて。お前、いっぱい怪我してるんだよ。だって血が、地面を何度も焼いて――」

 ノエルが暴れ回って怪我をする様を鮮明に思い出し、ラビは込み上げる涙を止められずに、とうとう泣いた。ノエルの漆黒の毛に顔を埋め、ぎゅっと握りしめた。

『……ラビィ、怖イ思イヲサセテ、ゴメン…………俺ノ血ハ全テヲ焼キ尽クスシチマウ。危ナイカラ、少シ、離レテナ?』
「やだ、絶対に離れない。オレはお前なんて怖くないし、離れたくないんだもん」

 ラビは、堪え切れず嗚咽をもらした。涙はどんどん溢れて止まらなくなった。