恐らく我を忘れているのだと察し、セドリックがラビの腕を引き寄せようとした時、黒大狼の胸元が大きく膨れ上がった。

 剥き出しになった黒大狼の牙の間から、赤黒い炎がもれた。黒大狼が四肢で大地を踏みしめ、一気に顎を引いたのを見て、グリセンがハッとしたように顔を強張らせた。

「ぜッ、全員更に後方へ退避―――――――――ッ!」

 グリセンが叫ぶと同時に、黒大狼が、強烈な火炎砲のように赤黒い炎を放った。

 激しい熱風が巻き起こり、全員が吹き飛ばされて地面の上を転がった。セドリックがラビを引き寄せて、熱風から庇うように抱きとめる。

 黒大狼は、長い間赤黒い炎を吐き続け、黒い炎に呑まれる氷狼が悲鳴を上げて頭の上の悪鬼が燃え尽きた。

 強烈な炎が止んだ時、黒大狼の周りに立つ氷狼はいなかった。どうにか息はあるようだが、悪鬼が引き剥がされた事で既に意識を失い地面に崩れ落ち。虫のような息を吐いていた。

 そんな氷狼達に、黒大狼が鋭い眼光を向けた。