「君の親友の獣は、炎狼の一種なのですか? あんなに巨大で凶暴なのは見た事がありませんがッ」

 問われたラビは、何も答えられなかった。氷狼達に集中攻撃を受けるノエルが、まるで凶悪な野獣のように暴れる様が、信じられないでいた。

 五本の尾を持った黒大狼から流れ落ちる血が、大地に触れるたび煙を上げていた。氷狼の血を浴びるたび、黒い獣の身体からは蒸気が立ち、誰も傷つけない優しい友達の凶暴な姿に、ラビは悲しくなった。

「……駄目だよ、ノエル。ノエルはひどい事をしない子だもの。きっと、傷つけるたびに辛いんだ」

 ラビは、怒り狂ったノエルの金緑色の瞳や咆哮の底に、傷付ける事に対する悲痛を覚えた。

 もつれる足で歩き出そうとしたラビの腕を、セドリックが掴んだ。

「ラビ、どこへ行くんですかッ」
「……ノエルを迎えに行くんだよ、彼を止めなきゃ」

 黒大狼と氷狼の戦いは、まるで虎が仔猫を相手にするような体格差があった。ノエルは悪鬼を切り離す目的を忘れて、殺さないギリギリの苦痛を与え、氷狼達をいたぶり続けているようにも見える。