氷狼の頭の上から悪鬼が顔を覗かせて、耳障りな声でキィキィと鳴いた。

 乱闘を楽しみ嗤う顔に、ああ、なんて低俗なのだろうと、ラビはノエルが口にしていた悪鬼の存在を把握して強い怒りを覚えた。

 その時、後方にいたジンが短剣を構え「すまない」と謝った。

「ラビ、お前じゃ無理だ。俺が――」
「ジンッ、このまま氷狼の鬣の中を突き刺せ!」

 ラビは怒りのままに叫んだ。

 悪鬼の顔から笑みが消えた。ラビは構わず、戸惑うジンに向かって指示した。

「氷狼は暴走しているだけなんだ。いいからオレを信じて、氷狼の左目の上を真っ直ぐ貫け! そうすればこの氷狼は止まる!」
「くそッ、何がなんだか分からねぇが――了解した!」

 ラビの気迫に押され、ジンがやけになったように短剣を構えた。彼は短剣を振るい上げると、ラビの上から氷狼の鬣目掛けて「えぇい、神よッ」と短剣を突き刺した。

 それは氷狼の氷の鬣を少し傷つけた程度だったが、ラビの目には、短剣が悪鬼を貫くのがハッキリと見えていた。