騎士団の剣は、氷狼の体表の氷を叩き割る事は出来ても、皮膚には到達出来ず動きを止めるのが難しい状況だった。男達は、大きな身体で俊敏に動き回る獣に翻弄され、剣を振るう前に刃先を噛み砕かれる者もある。

「ッこれじゃあダメだ。集中して悪鬼を倒さないと、氷狼の群れには太刀打ちできない……!」

 ノエルの言っていた言葉を理解し、ラビは舌打ちした。確かに、悪鬼が見える人間がいないと、圧倒的に不利な戦いだと思った。

 ラビは、苦戦するヴァン達の元へ駆け付けようとした。しかしその途中、別の氷狼が騎士達の包囲網を抜けた事に気付いて、進路を急きょその氷狼へと変更した。

「止まれッ」

 氷狼に向かって叫びながら、ラビは加速する直前だった獣の脇腹に剣を打ち付けた。氷狼が体制を整えようとした一瞬の隙をついて、頭上から悪鬼だけを切り裂いた。

 その時、「畜生ッ、待て!」という罵声と共に、ジンが彼女の脇を通過した。別方向の包囲網を突破した氷狼を追った彼は、氷狼の後方から素早く剣を振り上げたが、氷狼が俊敏に振り返って彼の刃を噛み砕いた。