ラビは、ノエルの首元を叩いて、周りの喧騒に負けない声で訊いた。

「ノエル、悪鬼って亡霊って聞いてたけど、剣は有効ッ?」
『【月の石】を使っている今なら、人間の武器でも簡単に倒せる。――とはいえ、見えなきゃ難しいがな』

 ノエルはラビを背から降ろすと、深い金緑の瞳で『無茶だけはするなよ』と言い、騎士団の包囲網から飛び出してきた氷狼に襲いかかり、激しくもみ合った末に地面に打ち付けた。

 ラビは、近くで倒れていた騎士に駆け寄った。大きな損傷はないようだが意識はなく、少し離れた場所まで引きずると「ちょっと借りるね!」と彼の握られたままだった剣を取った。念のため、転がっていた盾を彼の上に置いてから駆け出した。

 町の中心に向かおうとする氷狼が目に止まり、ラビはその氷狼の前に回り込むと剣を構えた。

 氷狼が威嚇のように咆哮し、強靭な爪を振るって来た。それを避け、頭にしがみつく悪鬼目掛けて素早く剣を突き刺すと、亡霊とは思えない確かな手応えと共に、悪鬼が緑の細かい粒子となって消えていった。

 ラビは、辺りに素早く目を走らせた。

 地上に溢れた氷狼は、既に軽く三十頭を超えていた。警備棟の屋上へ視線を向けると、人間を食らう事が目的でない氷狼が、屋上で攻防する騎士達を飛び越えて、地面に飛び降りているのが見えた。そこで待ち構えていたグリセンが、放火銃で強烈な炎を浴びせかけ続けている。

 しかし、正面から炎を浴びて苦しむのは氷狼だけで、悪鬼は氷の鬣のに身を潜め、無傷である事をラビは見て取った。