既に警備棟から溢れ始めている氷狼は、虎ほどの大きな身体を持ち、全身は鋭い氷に覆われていた。凍てつく青い瞳をし、鋭い牙と、数十センチはある大きな五本爪で騎士団に襲いかかっていた。

 その時、一頭の氷狼が、二人の騎士の包囲網を突破して、こちらに向かって来た。

 ラビは「ノエル!」と鋭く叫んだ。ノエルが『分かっている!』と低く唸り、大きく跳躍して先頭の氷狼に襲いかかり、氷狼の肩に食らいついて勢い良く地面に押し倒した。

 不意にラビは、氷狼の氷の刺のような鬣に隠れる、奇妙な緑の生物に気付いた。

 それは、真っ赤な一つ目の小さな頭に、鋭く尖った大きな耳を持った手サイズの生き物だった。身体はまるで痩せ細った胎児にも似ていて、黒く太い爪が手足の先から伸びていた。

『こいつが悪鬼だ』

 ノエルが低く言い、押さえつけた氷狼に向かって大きく口を開け、氷の鬣に潜む悪鬼を食い千切った。氷狼の体表の氷は体毛から出来た厚い鎧のようだったが、ノエルは傷付かず、その尖端の方が薄い煙を上げて砕けた。

 氷狼は悪鬼が剥がされると、途端に白目を向いて崩れ落ちてしまった。