「気配を、嗅ぎつける……」
『とはいえ、あいつらもいずれは、一斉に攻撃して突破すればいいって考えに行きついただろう。しっかし、悪鬼が見えるのは俺達だけで、その相手が氷狼を使っているってのは不利な状況だよなぁ。つまらねぇ約束なんか忘れて、【月の石】をもうちょっと拝借しとけばよかったな』

 ノエルは警備棟へ真っ直ぐ向かいながら、悪鬼は亡霊だからこそ、身体の支配権を奪う能力に長けている事についても語った。

『氷狼は聖獣だから、亡霊である悪鬼でも身体の中には潜り込めない。恐らく直接身体に触れて操っているだろうから、そいつらを強制的に消すか、引き剥がしちまえば氷狼は止まる。――但し、氷狼は熱に弱い。一刻も早く決着をつけないと、先にあいつらの身体が死んじまう事を忘れるな』

 先に進むにつれて、パニック状態は更に強くなった。警備棟のある東の方向から、大勢の人間が必死の形相で逃げて来る。

 彼らは、飛び込んでくるノエルに気付くと、「こっちからも来たぁ!」と悲鳴を上げたが、足を止める事なく西の方向へ一直線に駆けた。既に氷狼が警備棟を乗り越えたのだろうと、ラビは最悪の事態に気付いて緊張した。

 人々の悲鳴の向こうから獣の咆哮が聞こえ、ノエルの足に力がこもった。

 目的地まであと少しの距離まで迫った時、ラビは、警備棟から黒い煙が上がっている事に気付いた。屋上や地上に目を凝らすと、騎士団と害獣が激しくぶつかり合っているのが見えた。

 騎士達は害獣の侵入を食い止めようと、激しい攻防戦を繰り広げていた。地上に出た騎士団の男達が、盾を構えながら獣の爪と牙から身を守り、剣と砲火銃で応戦している。