町がパニック状態になっているのを見て、ラビは、これまで想像していた彼が誰にでも見えていた場合の反応が現実になっている光景に「まぁ、そうなるよなぁ」と呟いてしまった。

 誰にも見えないのは寂しいけれど、人間は小型の狼だけでも、害獣が出たと大騒ぎするのだ。そう考えると、もし彼ほど大きな狼がいたとしたら、驚くのは当然の反応なのかもしれないとも思った。

         ※※※

 大きな黒大狼の姿が見えなくなってすぐ、セドリックは辺りに素早く目を走らせた。ちょうど見回りにあたっていたらしい二人の部下をみつけ、荷車を差して「これを頼む!」とだけ告げて走り出した。

 上司が駆け出す姿を見て、ユリシスも駆けた。後方から若い騎士の「これ一体どうすればいいんですか!」という声が聞こえたので、一度だけ振り返り「氷狼の一件の重要参考品です!」と叫び返した。

 二人は、全力疾走で警備棟に向かって駆け続けた。

 ユリシスはすぐに息が上がるのを覚えながら、少し前を走る上司の背中に向かって叫んだ。

「副団長ッ、これは一体どうなっているのでしょうかッ。私にはさっぱりなのですが!」
「鬼や石や、喋る狼と気になる点は多々あるが――今は警備棟がピンチだという事でしょう。とにかく、考えるのは後で、今は走る!」