「時間がないからあんまり説明してやれないけど、警備棟が氷狼に襲撃されてる。オレは先にノエルと一緒に行くから、とにかくこの荷車を丸ごとお願い!」
「ちょっと待って下さいラビッ、僕には何がなんだか……ノエルって、コレが狼のノエルだというんですか!? それにあの石は一体――」

 セドリックが剣をしまいつつ、早口に畳みかけた。ユリシスが立ち上がり、ノエルを警戒するように見つめる。

 すると、ノエルが地面を強く踏みつけて『ごちゃごちゃうるせぇ!』と怒号した。

『そんな暇ねぇっつってんだろ! お前らは見分けがつかねぇんだから、【月の石】が混じっちまってる荷車ごと隔離しとけってんだよ! 氷狼を誘導している悪鬼は人間を食うんだ。あいつらが、もしそれを使って完全に実体化しちまったら、町の人間はたちどころに餌になっちまうし、食われた人間の腹からは厄介な別の鬼が産まれるんだぞ!』

 ユリシスが「化け狼が喋ってる……」と茫然と呟いた。自分の目と耳が信じられず、落ち着きなく眼鏡を掛け直す。