二人の視線を覚えながら、ラビは泣き顔を見られないよう袖で涙を拭った。まるで言い負かされたようで悔しくて、テーブルの上を睨みつける。

「……もう放っておいてよ。ノエルがいれば平気だもん。誰にも見えなくったって、オレはノエルが存在しているって知ってるからッ」

 その時、ラビは人混みの中から『ラビィ!』と上がる声を聞いた。

 驚いて立ち上がると、漆黒の毛並みを乱して駆け寄ってくるノエルの姿があった。彼がラビの名前をきちんと呼ぶのは珍しく、大抵はひどく動揺している事が多い。

 ラビは慌てて人混みをかき分け、ノエルに駆け寄った。

『ちょっとヤバい事が――、おい、どうした? また人間に泣かされたのか? それとも、どこか痛いのか?』
「えッ。いやいや、違うよ。ちょっと目に埃が入っただけ」

 ラビが咄嗟に言い訳すると、彼は『ふうん?』と不可解そうに首を捻ったが、すぐにハッとして捲くし立てた。

『ッじゃなくてだな。氷狼が群れで向かって来る! とりあえず【月の石】の在り処が分かったから、それを人間に任せたら、俺達はすぐにでも氷狼のところに向かおうッ』

 ノエルは言い終わらないうちに、ラビの服の袖を噛むと強引に引っ張り始めた。